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(ss)458

作品情報

作者3-409氏初出070205
題名無題

 今更言うまでもないことだが、授業が終われば部室へ向かい、またぞろややこしい出来事が起こりませんようにと願いつつ、古泉と不毛なゲーム合戦に明け暮れるのが俺の日課だ。
 しかしあまりに何も起きなければ、年中無休の活火山たるハルヒがひとり大噴火を始め、誰に頼まれたわけでもないのに東奔西走するのは当然の話である。いや、どちらかと言えば西へ東へ走らされるのは、他でもない俺自身なのだが。
 ともあれ、そうやって無駄にあり余った情熱を明後日の方向に際限なく暴走させたあげく、引かんでもいい当たり籤を引き当ててしまうのが涼宮ハルヒ、という人間だ。おまけに厄介なことに、当人にはその自覚が微塵も欠片もこれっぽっちもなく、事態に更なる混沌を招き入れようと画策するにあたり、愛すべき我らがSOS団構成員は再びの東奔西走を余儀なくされる、ってわけだ。
 直接聞いたわけじゃないんだが、誰だってそんな事態は望んじゃいないはずだ。いくら古泉でも、そうそう巨人とどんぱちやりたいわけでもないだろうし、朝比奈さんにしろ、いつまでも意図不明な未来からの指示だけで行動したくはないはずだ。当然、長門もループする現実なんぞにはさすがにうんざりしているだろうし、世界の作り直しなんざもうまっぴらだろう。朝倉は
……まあ、その手の出来事を喜々として受け入れているように見えるが、本当にどうしようもない状況に陥る前には手を打ってくれる辺り、思うところはあるんだろうさ。まあ、さもなきゃ今頃俺はまたあいつに追っかけ回されてるはずだからな。それは勘弁願いたい。
 そんなこんなで、だ。朝比奈さんとともにSOS団の良心を担う俺としては、何事も起きないように願いつつ、しかしハルヒが憂鬱だの退屈だのに陥って、溜息つきつつ余計な陰謀を企てたあげくに暴走なんぞしないよう、ささやかな事件が起きるのを願う、そいつが日課になっている。
我ながらよく分からない話だけど、な。


 いささか前置きが長くなったが、俺が今日も今日とてそんな日課をこなすべく、ハルヒに一声かけてから部室に向かおうとしていたのだが。
「ねえねえ涼宮さん」
 そのハルヒに、俺より先に声をかけたやつがいた。朝倉だ。
「わたしたちこれからカラオケに行くんだけど……どう? 涼宮さんも来ない?」
 見れば、谷口国木田を始め、男女合わせて結構な人数ののグループらしいが、特にこっちを気にしているわけでもないようで、俺としてはなんとなく感慨深い。ひところに比べれば随分と丸くなったとは言え、相変わらずハルヒはどうやったところでハルヒでしかない。それでも、こうして周囲にとけこんできている光景を見るのは、俺じゃなくても悪い気分じゃないだろうさ。まあ、声をかけてきたのが朝倉、ってのは置いておくとしてな。
 で、そのハルヒはどうするんだろうね。そう思って後ろの席を振り返ると、何故かあいつは妙な顔で俺を見ていて目が合った。そんなことをされても困るんだが。
「いいわよ」
 あいにく、テレパシーなんぞ標準搭載でもなけりゃオプションでも対応していない俺から何を読み取ったかは知らないが、一拍置いて朝倉の方に視線を移したハルヒはそう答えた。まったく、成長したもんだね。ともあれ、これで今日の部活は合法的になしってことになる。たまには早く帰るのもいいだろうさ。
「ちょっとキョン。どこ行くのよ」
 どこって、そりゃお前がいないんだから部室に行ってもしょうがないだろ。今日は帰る。
「はあ? あんた、まだ自分の立場が分かってないようね」
 そう言って、大方の予想通りいつもの傲岸不遜な笑顔でハルヒは俺に告げた。
「あんたも一緒に来るに決まってるじゃない!」


 かくして、久方ぶりの自由な放課後はあっさりとカラオケボックスの騒音に飲み込まれて消えていったのだった。などと言うと、何やら俺が協調性のないやつのようだが、別にそんなことはない。思い返せば、SOS団に入り浸るようになって以来、他の連中を交えてどこかに行く、なんてのとはとんとご無沙汰だっただけの話だ。
 そして、カラオケは独壇場とまではいかないが、ハルヒオンステージの様相を呈していた。あいつのボーカルに関しちゃ、学園祭の件で折り紙付きなわけで、皆それが目当てでもあったらしい。コンスタントに何やらバイオレンスな歌詞の曲を歌い上げる朝倉を除けば、ハルヒが他のやつらの軽く二倍は歌ってるんじゃないだろうか。それでも俺を含めて文句は出ない。分かっちゃいたが、あらためてハイスペックなやつだ。たいしたもんだね、まったく。

「ちょっとごめんね」
 そんなわけで、マイクを置く暇もなく気持ちよさそうに歌い続けていたハルヒだったが、不意に申し訳なさそうな様子で立ち上がった。なんでも長門から連絡が入ったらしい。また当てもなくてもいい当たり籤を引き当てたんじゃなかろうな。携帯片手に部屋を出て行く後ろ姿に、ひとり俺だけが戦慄を禁じえなかったことを記しておく。いや、本当に。
「ねねね、キョンくん」
 台風一過とまでは言わないが、ほんの一瞬のエアポケットのような間隙。ハルヒが出ていく、それを待っていたかのように、こちらに身を乗り出してくる朝倉。見れば、他の連中も似たり寄ったりの様子で、SOS団で鍛えられた危険関知センサーが即座に警報を発令する。ちょっと待て。これはあれか。
「ホントのところさ、涼宮さんとはどうなの?」
 頭を抱える、という言葉がある。このとき、俺は初めてこの言葉の意味を悟った。人間、どうしようもなければ頭を抱える以外に他はない。まさか、長門の電話まで朝倉の仕込みじゃないだろうな。
「さあ、それは長門さんにでも聞いてみたら?」
 絶対そうだろお前。
「もう、しつこい男の子は嫌われるんだよ?」
 そういう問題じゃないと思うんだが。それと谷口、国木田。お前らどうしてそんなに楽しそうなんだ。
「細かいことは気にしないの。とにかく、質問してるのはこっちなんだから。それで、涼宮さんとは――」
 この後、俺が何を聞かれて何を答えたか、そいつはオフレコということで勘弁願いたい。誰だって俺の立場ならそう言うだろうさ、分かるよな?

「どうしたのよキョン、そんな顔して」
 やがて戻ってきたハルヒにすれ違いざまに言われたが、こいつには答えようもない。むしろ答えたが最後、どうなるか分かったもんじゃない。適当になんでもないと答えて逃げるように部屋を出るのが精一杯ってところだ。やれやれ。


「明日は今日の分もみっちり活動するんだからね!」
 決死の思いで残り時間を耐えしのいだ俺とは対照的に、何やらやたらとハイテンションなハルヒは、そんな台詞を別れの挨拶に颯爽と去っていった。SOS団の活動に、みっちりも何もないと思うが。
「今日はお疲れさま」
 溜息混じりにその後ろ姿を見送っていると、疲労困憊させてくれた張本人が声をかけてきた。誰のせいでだろうな。
「さあ? それより、もうちょっとだけ付き合って欲しいんだけど」


 そして、反論するも勝てるはずもなく、丸め込まれた俺は朝倉を送るという名目で宇宙人マンションへの道を歩いている。谷口のこの野郎という怨念めいた視線も感じたが、変われるものなら変わってやりたいのが本音だ。
「あー、でも今日は楽しかった」
 朝倉は喜々として他愛のない話を続ける。俺としては相槌を打つ以外に他はないような、そんな話だ。さて、こいつは何がしたくて俺を連れてきたんだろうね。そう思った矢先に。
「キョンくんが出ていった後ね、涼宮さんにも同じこと聞いてみたんだ」
 朝倉は、しれっととんでもないことを口にした。
「うん、あの時の涼宮さんの顔、キョンくんにも見せたかったな」
 悪いが俺は見たくない。絶対にだ。
「最初は何を聞かれたのか分からない、っていう顔でね」
 人の話を聞け。
「それからしばらく考え込んじゃって、最後に何て言ったと思う?」
 知らん。知りたくもないぞ。
「『あたしがついてないとダメなんだから』だって」
 そりゃこっちの台詞だろうが。放っといたらどこまでも独りで飛んでいっちまいそうなのはどっちだ。
「愛されてるね、キョンくん」
 何か言い返してやろうかと思ったが、言葉が出ない。ついでながら、何を言ってもこっちの負けが確定している気もする。どうすりゃいいんだろうな、まったく。それでも、何も言わないのは妙に負けた気分になるので、一つ浮かんだ疑問を代わりに口にすることにした。
 俺とハルヒのことはまあいいとしてだ、朝倉、お前は何がしたかったんだ?
「百聞は一見にしかず、千聞とてまたしかり」
 何かを悟ったような声で、朝倉はそう言った。
「有機生命体の『恋』の概念を学べば、いつかわたしもそれが出来るんじゃないかな」
 そして小さく肩をすくめてから、そう言ったら信じる?、と笑った。
 信じるって言ったらどうする。
「お人好しだねって答えるだけだよ。これでもわたし、一度キョンくんを殺そうとしたんだけど?」
 そんなこともあったな。
「そう言えるのがあなたのすごいところ。やっぱり有機生命体って分からないなあ」
 お前は十分すぎるくらい分かってるだろ。そう思ったものの、あえて口にはしなかった。そんなことだから、お人好しだなんだと言われるんだろうがな。
「それじゃ、今日はホントにお疲れさま」
 気がつけば、マンションはもう目の前だった。今度はSOS団で行ってみるのもいいかもな、手を振って去っていく朝倉の姿に、なんとなくそう思ったた。まあ、長門は歌うかどうか非常に疑問なところで、朝比奈さんは申し訳ないが例の歌の印象が強すぎて、古泉は当たり障りのないものしか選ばない気もするが、楽しいことには違いないだろう、きっと。鶴屋さん辺りも誘ってみるかな、そんなことを思いつつ、宵闇の落ちてきたマンションを見上げる。
 ああそうだ、言い忘れてたけどな、朝倉。
 楽しかったよ。次はもう少しお手柔らかに頼みたいけど、な。

Last modified:2007/02/05 15:32:54
Keyword(s):[ForMelancholicLovers]
References:[旧作一覧その5]