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(ss)094

作品情報

作者4-340氏初出060810
題名無題

年も押し迫ってきたある年末の午後。俺は旅行に出かける前に髪を切っておくべきかと思い散髪に出かけた。
やはり、新年を迎えるなら髪もさっぱりしておきたいところ。
だがそう思ったのは俺ばかりじゃないようで、行きつけの理髪店は満員御礼の垂れ幕が下がりそうなほど盛況だった。
「ゴメンなぁ、今日はまだ20人くらい待ってるから、良かったらまた明日きておくれ。」
理髪店の店主は申し訳なさそうにそう言う。だが明日から雪山合宿なんだよなぁ・・・・
半ば諦めムードで家に帰ろうとすると、家の近所に新しく美容室がオープンしているのに気付いた。
よし、今日はこの美容室で髪を切ってもらうか。

「すいません、予約はしてないんですけどいいですか?」
ドアから顔を覗かせて聞くと、受付で暇そうに佇んでいた女性は「大丈夫です」と元気いっぱいに答えた。
まぁ、こんな閑散とした住宅街の中の美容室じゃそんなもんか。
「こちらどうぞ」
案内された椅子に座って鏡を見る。その鏡越しに映っていた美容師は・・・・
「何でお前がここにいる?」
美容室の客とスタッフの会話としては、ちょっとありえない言葉だろうが、俺はそんなことお構いなしに訊きたい気分になっていた。
「なんでって・・・ココが私の新しい職場なのよ、キョン君。」
朝倉だった。

「おでん屋さんがねぇ、軌道に乗ったときにちょっと色気出しちゃって石炭の先物取引に手を出しちゃったのよね。」
「・・・・・・ふうん。」
「それで全財産どころか、ちょっと莫大な借金抱えちゃって・・・今はここで研修生として腕を磨いてるのよ。」
朝倉は、ハサミとかは使わずにナイフだけで俺の髪をばっさばっさと切っていく。
「あ、大丈夫よ怖くないって。いつも長門さんの髪を切っていたんだから。」
俺は長門が切り先の不揃いなボブカットだった理由をここで理解した。
「最近涼宮さんとはどうなの?上手く行ってるのかしら?」
「な、なんだよそれ!」不意に変なことを訊かれて動揺する。
「あら?その様子だとまだキスより先には進んでないのかな?」
「なんでそうなるんだよ。俺は別にハルヒと付き合おうだなんて・・・・」
「・・・ふぅん。」
意味深な返事。そのふぅんにはどんな意味を当てはめて解釈するべきだろう?
「キョン君、どこか痒いところはありますか?」
わざと敬語で訊いてくるところがまた小憎らしいが、俺はとりあえず無いと答える。
「本当?キョン君くらいの年頃だったら、色々とかいて欲しいところあるんじゃなくて?」
「いや、誤解を招くようなこと言うな。無いったらない。あっても言わない。」
「そう・・・・私はキョン君にかいて欲しいところあるんだけどなぁ・・・」
「はぁっ!?」
「くすっ、冗談よ。冗談。」
なんだ今のは?
「マッサージしまーす」
朝倉がその細い指で肩とか首筋とかを揉んでくれている。
結構気持ちいいなこれ。肩を揉んでもらうなんて初めてだからかな。
なんだか眠くなってきた・・・・


「っが!?」
起きた。隣で朝倉が耳掃除なんかしてくれてたらしいが、起きたときに思いっきり動いてしまったので
ちょっと奥の方に耳かき棒がいってしまった。
「いててて」
「あははっ、ごめんね。痛かったかしら?」
「いや・・・・多分大丈夫だろう。」
「えー、でも耳血が出てるわ。」
「なにぃ!?」
「冗談よ。冗談。」
くすくす笑う朝倉が、なんだか楽しそうだったので俺もつられて苦笑してしまった。
情報思念体とのかかわりを無くした朝倉は、おでん屋をやったり美容室で働いたりなんだか苦労してるんだなぁと思うが、
でも根本的に明るい性格なのかちっとも悲壮感がないところが凄いと思った。
むしろ、楽しくてやってるという風にも見える。
一度はマジで殺されかけた相手なのに、そんな風に朝倉を見る自分がなんだか意外でもあり、複雑な心境だ。

代金を払って美容室を出る。朝倉は出口まで送ってくれた。
「しばらくここで働くのか?」
「わかんないけど、一つの場所に長くいると情報思念体に存在を悟られる可能性もあるから・・・」
長門か。でもアイツが美容室に行く場面を想像できないので、そんなに心配することもないのでは?
「じゃあね。また来てね。」
過去のクラスメイトはそう言って笑顔で見送ってくれた。

そして家に帰ると、妹が俺の顔を見て一言。
「キョン君ほっぺに口紅が付いてる。」
なんだと?
俺は、妹の執拗な「なんで?だれの?」攻撃をかわすため部屋に閉じこもった。

そして年も開けた。
俺が旅行から帰ってくると、なぜかあの美容室は店じまいしていた。
そりゃそうか。年末の忙しい時期にあんなに暇そうなんだもんなぁ。
でも俺は、何故かまた別の場所で朝倉に会えるんじゃないかと、ほんの少しだけ根拠のない期待を抱いていた。

Last modified:2007/01/06 00:33:35
Keyword(s):
References:[旧作一覧その1]