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(ss)053

作品情報

作者3-220氏初出060723
題名無題

鼻歌を口ずさみながらどうせ崩れる事になる髪型を念入りにセットしている谷口を無視して、俺と国木田は顔を洗い寝グセを直すと先に外へ出た。
向かい合う女子の宿泊棟を見ると、ちょうど集合場所の広場へ曲がっていくハルヒの背中越しに、談笑していた阪中と朝倉がこちらに気付き手を振ってきた。挨拶をかわしながら俺は唐突に、何故このタイミングかわからんが再編入してきた日の朝倉の言葉を思い出した。
もう涼宮ハルヒにもあなた達にも直接手は出せないけど、偶然の事故ならどうかしら…と言って、付き添ってきた長門の目が1ミリ大きくなったのを見て冗談よ、と笑えない俺の前で一人微笑んだ…「どうしたの?まだ眠い?」気がつくと朝倉が俺の顔を見上げていた。
「ああ、少し寝付けなくてな」「それなら涼宮さんに会いに来ればよかったのに」「やなこった」「そう。今日は忙しくなりそうだから頑張ってね」
朝倉はあの時と同じように微笑んだ、そして今度は前を歩くハルヒとようやく後方から現れた谷口へ交互に声をかけている。
ちなみに寝付けなかったのは本当であり、その原因となったのは古泉の奴が枕元に立っているという気持ち悪い夢を見た事で
うなされながら飛び起き、一睡もできなかったのである。あれは夢だったんだよな、夢であってくれ、それ以外認めん。

さて、オリエンテーリングというものをご存知であろうか。本来は個人競技であり、知力と体力が要求されるスリリングなスポーツなんだそうだが それをいかにも日本人らしい発想で、団体戦の方にだけ注目した上ただ忍耐力だけを強要するものと大幅に変更した揚句に、林間学校のお約束と なったものである。班員の親睦のためって、ただ疲れて雰囲気悪くなるだけだとほとんどの生徒が憮然としている中、ちょうど隣にいた長門だけは いつもの無表情で、遠くに見える古泉はニヤニヤしていて、そしてハルヒは何か企んでいる目をしていた。先程岡部に職員を呼び出させ、資料を見て何かを確認しているのを見た、嫌な予感がする。その時、ハルヒは振り向いて俺達団員…今日の俺達は班員か、に宣言した。
「ただ言われた通りやっても楽しくないんだから、少しでも時間を無駄にしないよう工夫しなきゃね。という事で私達は新記録を出すのよ!」

ここでのオリエンテーリングの最速タイムは、合宿に訪れた北高近くの大学の軟式野球サークルが持っているらしい。
メンバー一同でのブーイングをあっさり却下して早歩きを始めたハルヒに、毎日鍛えている大学生相手にどうやって勝つのか尋ねてみると地図を広げ、「いい?ここと最後のチェックポイントの間、実はこう通る事ができるのよ…今朝早起きして大体確認してきたから間違いないわ」
わざわざそんな事してたのか。そんなこんなでハルヒ以外の全員が息を切らしながら2位に倍以上の距離差をつけ、ハルヒの言う通りにルートから
外れて森の中を通り抜け、視界が開いた時、目の前に現れたのはガケだった。登るんじゃなくて横を通るらしいが、どっちにしても行きたくない。


「おい待て、まさかここを通るつもりか」「そうよ?ほら、ここに道があるじゃない!」この申し訳程度に固まった土のどこが道なのか?
「前を向いて歩ける幅があるから大丈夫よ。引き返してたら抜かれちゃうわよ!!」こうしてハルヒはびくびくする阪中の手を取ってやりながら先頭を歩き出し、フォローするように朝倉も続いたので俺も歩き出すしかなかった。踏み出して気付いたが、妙に足元が緩くて、何度か足が埋まりかけたり逆に崩れそうになったりしている。「この辺りは一昨日まで大雨だったから、地盤が緩んでるかもしれないのね」
阪中が半分ほど進んだ所で震えた声で呟いた。頼む、そういうのは先に伝えておいてく…「うおっ!?」「じ、地震!?」「キョン!!」「みんな!?」

なんだそりゃ?こんな都合悪いタイミングで地震だなんてありえねーだろと思ったその時、誰かによって俺は思いっきり下へと引っ張られた。
そしてそれが足場が崩れた事の間違いだったのに気がついたのは、上を見てもいないのに空が目に入り、次に口を大きく開けたハルヒがこちらを見下ろしていた時だった。その後固まっている阪中が見えて、そして、ハルヒと同じように口を開けた朝倉がいた。何かを言っているのか、口が動いているがまったく聞こえない。そういえば以前その朝倉に殺されかけたせいか、落ちているというのに頭はやけに冷静だった。
ああ、骨折ですめばいいな、なんて考えていたほどだった、さてそろそろ地面に落ちる頃だ−ぽんっ、と柔らかい感触がした。柔らかい?
まるでクッションの上に着地したような感触がして下を見ると、地面があるはずの所に植物が被い茂っていた。これのおかげで助かったらしい。
だが、よく見ると何かおかしい。俺はこんな植物なんて見た事ないし、どこの国のものとも思えない。そもそも、いくら何でもさっきのような感触があるわけがない。まるでたった今誰かが急いで適当に持ってきたような気がした。そして、そんな事ができる奴は俺の知る限り2人しかいない。

「朝倉、お前が助けてくれたのか?」
あのハルヒが、流石に責任を感じたのか実は俺と一緒に落ちていた谷口と国木田に謝っているという、もう一生見られない光景を横目に、俺は少し後ろでそれを眺めていた朝倉に話しかけた。2人は別に無傷だから気にするなと、阪中と一緒に笑顔で励ましていた。
「…もし、自分自身のせいであなたが大怪我した、なんて事になったら涼宮ハルヒはどうしていたかしら」
知るか。本当に見たかったのなら俺達がそのまま転落して動かなくなるのを見物してればよかったんだろ。朝倉はそれを無視して「急いだから原子の構成を間違えたの、長門さんならこんなミスはしなかったでしょうね。この改竄が周囲の生命体に影響を与える前に元に戻しておかないと怒られちゃうわね」と、俺の方を見ずに喋っていた。長門といえば、朝会った時に何も言わなかった。朝倉が何か企めば、あいつならすぐに気付いて俺に注意を促すだろう。という事は、今回は本当に、朝倉が言う所の不慮の事故だったわけだ…
その時朝倉がくるりと反転した。「そろそろ行こう?みんなゴールして心配してる頃よ、それともまだ最下位は免れられるかしら」

あの日見た微笑みとは違う満開の笑顔だった。

Last modified:2007/01/03 02:46:11
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References:[旧作一覧その1]