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喪男学級

第二百五十一話:”喪男学級”

 卒業式が終わった。春休みに入った高校は、一時の静けさに包まれる。
 喪男が校長に赴任してから、次の新年度で三年目になる。
 日常生活と縁の薄い校長の存在を、強く気に留める生徒はいない。
 しかし喪男には、かねてから準備していた計画があった。
 授業こそないものの、校長には一般職員とは比べものにならない量の業務がある。
 本来ならすぐにでも実行したかった。
 学校の様子を調べ、生徒や教師の意識を探る。すべて単身で極秘裏に進めねばならない。
 四月からのクラス編成は、喪男が大きく介入している。
 悲願であった試みを実践する時が来た。

 喪男の高校生活は明るいものではなかった。
 特にいじめられた経験はない。成績も優秀だった。しかし喪男は楽しくなかった。
 周囲に溶け込む力が欠落していることは、入学してすぐ気付いた。
 友人も恋人もできなかった。その苦しさも、喜びも知ることはなかった。
 損をしたのか、得をしたのか、喪男には解らない。
 ただ高校生にしか体験できない多くの記憶を取りこぼしていること。
 その後悔は忘れたことがなかった。
 年齢を重ねた今からでは、あの三年間と同じものは手に入らない。
 解っていた。解っていたから、喪男は教育者になる道を選んだ。
 同じ後悔を、せめて次の世代には与えないように。

 高校の校長になった喪男は、各クラスにおける生徒の人間関係を調査した。
 予想通りの結果だった。
 喪男と同じように、どうしても輪に入れない、入らない生徒が存在する。
 高校生活の中にいる生徒や、同じ経験をしたことのない教師には解らない。
 入学が決まっている中学生についても、同様の調査が完了している。
 このままでは来年度も同じようなクラスができる。
 目に見えない、気にも留まらない、しかし大きな問題に、喪男は取り組んでいた。
 原因が本人であるとしても、学校の力で修正したい。
 この時にしかない体験を、生徒全員に与えたい。
 他に類を見ない理想があった。

 喪男の計画は、対象の生徒をすべて同じクラスにすることだった。
 馴染めない生徒には、その生徒なりの波長がある。
 無理にクラスへ合わせようとして、あるいは合わせようともせず、失敗する。
 そういった生徒同士は、時として意気投合することがある。
 多くの場合は他に相手がいないからであるが、喪男はこの現象に注目した。
 クラスに数名だから、つまはじきになる。
 いっそ学年全体から一クラスに集中させてみれば、これが基準にならないだろうか。
 協調性は大事だが、必ずしも多数派にそろえることはない。
 学校の見えない手よって、類は友を呼ぶ現象を作り上げる。

 生徒も教師も知ることはない、裏の意図を持つクラス編成が決まった。
 新年度が始まって、もうすぐ半年になる。
 クラス内の派閥や地位は、ある程度の時間を置かなければ定着しない。
 以前に集団真理について研究していた時の資料が、不意に頭をよぎる。
 絶対評価される集団においても、優秀な者、劣等な者の割合はほぼ一定である。
 また優秀な者だけ、劣等な者だけを集めると、その中で再び同じような格差が生まれる。
 人間だけではない。働きアリの生態などにも、同様の事象は観測されている。
 嫌な予感を抑えながら、喪男は改めて状況を調べた。

 溶け込めない者は、溶け込めない。
 喪男の作ったクラスにも、孤立する生徒はいた。
 今までの経験による思慮を期待するには、高校生は若すぎた。
 お互いに反発し、敬遠し、打ち解けようとしない。
 こうして人間関係を作れないから、このクラスに選ばれるのだった。
 一方で疎外因子を取り除いたはずの他クラスにも、変化は見られなかった。
 本来ならその位置にいない生徒が、ただ独りでいる。
 なにも変わることはなかった。
 多くの高校生は、かけがえのない高校生活の中にいる。
 それを永遠に手に入できない者がいることなど、知るよしもない。
 喪男は頭を抱え、机に突っ伏した。
 悲しかったが、不思議と涙は出なかった。

喪にも

可女少
な物語

作品情報

作者

出典

  • 第四夜[172-273]

あとがき

  • (投稿なし)
Last modified:2007/03/31 22:07:43
Keyword(s):
References:[第ニ百五十一話〜第ニ百六十話]