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思い出買います

第二百五十話:”思い出買います”

…という、看板の文句に惹かれて、喪吉は店に立ち寄った。
彼は妻子がなく、古いアパートで、ひとり寂しく暮らしている。

「思い出を買い取るというのは、どういうことですか?」
「そのままの意味です。私があなたから買い取った思い出は、あなたの頭から、さっぱり消え去ります」

店主は優しい微笑を浮かべていて、人間不信の喪吉でも安心できる。
嫌な思い出をいくつか売った。
なにか嫌なことがあったというのは、わずかに覚えているが、
思い出せないし、まったく気にすることが無くなった。

それから、喪吉は毎日この店に通い続け、やがて気付いた。
嫌な思い出を得るために、自分の意思で、相手を不快にさせていることに。
忘れるために、思い出を売っていたのに、今では、思い出を売るために、思い出を作っていたんだ。

空しさを感じた。人間だから苦しむのだ…と確信し、喪吉は全ての思い出を売った。
「山へお帰り」
店主がうながすと、喪吉は鳴き声をあげて、山へ帰っていった。

しばらくして、店主はあるところに電話をかけた。
かつて、喪吉に向けた、優しい微笑みは消えている。

「まったく記憶の無い人間など、獣と同じ。始末を頼むよ」
「ご協力ありがとうございます。謝礼は後ほど、口座に振り込みますので…」

銃声。
子孫を残さず、社会の役に立たない喪男が、また消えた。

作品情報

作者

出典

  • 第四夜[168]

あとがき

  • (投稿なし)
Last modified:2007/03/21 22:20:37
Keyword(s):
References:[第ニ百四十一話〜第ニ百五十話]