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砂時計

第二百五十五話:”砂時計”

ここに一人の喪男がいる。彼はネコが好きだ。
だが彼のアパートはペット禁止である。
高校中退でしがない工場の派遣社員。正社員にこけにされる。
しかもさぼりまくって、ろくな給料をもらえない。
いや、ろくな給料をもらえないから働く意欲が湧かないというべきか。家賃も滞納気味だ。
著しくずば抜けているのは、己の顔の醜さぐらいだ。もちろん今まで女性と交際したことなど無い。
そうそう、彼はアンティークが好きである。
ある日、喪男が買い物をしていると、ふと見たことも無い骨董品屋を発見した。
そこには物珍しいものばかりがずらりと並んでいる。
喪男はそれらを手に入れたくなったが、残念ながら持ち合わせが無かった。
結局一番安い砂時計を買った。砂時計にはご丁寧に説明書がついていた。家に帰って読んでみる。

「しあわせを呼ぶ砂時計」
この砂時計はあなたに幸せを運んでくれます。上から下に砂を落とすとどんどんあなたに幸せなことが起こるのです。
始めはちっぽけな幸せですが、砂が落ちきれば落ちきるほどもっと幸せになり、
砂が落ちきるときには究極の幸せがあなたに訪れるでしょう。

説明書に書いてあったのはおおまかこんな感じである。
わかりにくいが、ちいさな文字で「上」「下」とガラスに彫られた容器が対面している。
ごく一般の砂時計をイメージしてもらって構わない。
そして「上」にすべての砂が入っている。「下」はからっぽである。
喪男は不思議がったが、試しに砂時計を立ててみた。
はじめは何も落ちてこないじゃないか、詰まっているのか?と思えるくらいだったが、
確かに少しずつ砂が落ちている。全部落ちるには1週間くらいかかりそうである。
??あれ?
喪男の足元に100円玉が転がっていた。どうやら落としていたらしい。
「ラッキー」
喪男は100円を握り締め、砂時計を見つめる。
サラサラ・・・サラサラ・・・味気ない音と共に砂が1粒1粒落ちていく。

次の日。喪男は捨て猫を見つけた。
かわいい、飼ってやりたい。だが、うちのアパートじゃ・・・。
落ち込む喪男の肩を叩くものが居た。
アパートの大家である。
「あんたがあんまり不憫そうに見ていたから、心打たれたよ。飼っていいよ」
なんと喪男は子猫を飼うことができた。
喪男は子猫をミースケと名づけ、自室で買うことにした。

次の日。喪男は便宜上受けさせられた正社員昇格試験をなんと満点でパス。
晴れて正社員になることができたのだ。

次の日。喪男がたまたま買った宝くじが当たり、喪男は一気に数十万円の利益を得た。
「これは・・・」言葉は出ない。だが確かに砂時計のおかげで、自分は幸せになっている・・・。
明日を楽しみに喪男は就寝した。

次の日。喪男の工場の新入社員、ハルコが、突然話があるといって喪男を呼び出した。
わずかな期待を胸に行く。「喪男さん、ずっと好きでした。付き合ってください」
喪男は幸せだった。
この4日間で、子猫は飼えるし、正社員にもなれた。金も入ったし、念願の彼女も手に入れた。
これから先、これ以上の幸せはあるのだろうか・・・。喪男は有頂天になると同時に、若干の不安を感じた。
今、砂時計の砂は半分落ちたところだ。

家に帰る。猫と過ごす幸せな時間。もうすぐここに彼女も来るのだろう。
醜い顔をえびす顔にしている喪男をよそに、ミースケは狭い部屋を好き勝手行き来していた。
と、戸棚に飛び乗り・・・その拍子で砂時計が落ちてしまった。
「!!」喪男は冷や汗をかいたが、幸いガラスが堅く、割れはしなかった。
「まったく・・・」喪男はミースケの手の届かないところに砂時計を置く。
「ちょっと喉がかわいたな」
喪男はアパートを出て、すぐ向かいの自動販売機で飲み物を買おうとした。
チャリーン
「あっ」喪男が財布から100円玉を取り出そうとすると、100円は手から滑り落ち、自販機の底に流れていった。
ラッキーつづきのなかにも、アンラッキーなことも起こるんだな、と喪男は鼻で笑い、就寝した。

次の日、喪男が自転車に乗って通勤していると、突然小学生が角から飛び出してぶつかってしまった。
小学生は足を捻挫し、喪男は親からこっぴどくしかられた。
こちらの権利も主張したが、所詮交通弱者は歩行者。DQN親の怒りにも根負けし、
結局治療費を払わされるはめになった。

次の日、喪男はとんでもない光景を見てしまった。
ハルコが知らない男と並んであるいているのである。
ハルコは楽しそうにこう言った。
「職場にさ〜喪男ってやつがいてさ〜、そいつがしつこいんだよねー。
 罰ゲームで負けたから告白したのにさ、真に受けて『次いつデートするの?』とか『今度うちに来ない』とか
 メール送って来るんだよ〜。きもすぎーーー」
ハルコの声が、喪男の頭の中をこだました。喪男は震えたまま、しばらく動くことができなかった・・・

次の日。
ショックで会社を休む喪男の部屋のドアをノックする者がいる。大家だ。
「あんたのとこの子猫ちゃん、うるさくて苦情が来てるんだよ・・・出てってくれんかね?」
「へ?出て行く?なんで?」
「ほら・・・あんた今まで家賃も払ってないだろ?うち4月から家賃上げようと思ってるんだよ・・・。
 しかも最近このあたりに変質者がでるとか。その・・・喪男さんは・・・近所でも・・・」
いわんとしてたことはわかった。
要するにどこの馬の骨だかわからず、近所でも変質者の有力候補であるキモ男を、
家賃滞納で置いて置けるほど世の中うまくいかないらしい。
喪男はとりあえず宝くじの残りのお金を払い、借金を返すと、渋々1ヵ月後にここを出て行くと約束した。

公園で喪男はベンチに座り、うつむいていた。
ついてない。
なぜだ。
宿探しをしながら喪男は感じていた。やはりこんなによくないことが続くのは砂時計のせいに違いない。
砂はあと少しでなくなる。
喪男は気づいた。100円玉紛失から、だんだん不幸の度合いが強まっている・・・。
いつから?
俺が砂時計を・・・・ミースケの手の届かないところに置いてから・・・
はっ、と喪男は気づいた。
「ひょっとして俺は逆さに!」
自分の根本的なミスに気づく。あの日置きなおしたとき、上下を確認しなかった。
半分半分だったから、間違えてしまったのである。
そして・・・砂があと少しでなくなるということは・・・
「究極的な不幸が・・・」
「いけない!」喪男は後ろを振り返らず家へと走り出した。
砂時計を元に返さないととんでもないことになる。今の喪男はそれしか考えなかった。
だからそのときの彼は全く気づかなかったのである。
それが幸せだったのか、不幸せだったのかはわからない。

居眠り運転をしたトラックが、背後から、喪男のすぐ傍にまで突っ込んできていた。

場面は変わって喪男の部屋。
ミースケは今日も優雅にゴロ寝中。
その背後で、砂時計の最後の砂が、静かに落ちた。

喪にも

可女少
な物語

作品情報

作者

出典

  • 第四夜[221-224]

あとがき

  • (投稿なし)
Last modified:2007/03/31 22:12:21
Keyword(s):
References:[第ニ百五十一話〜第ニ百六十話]