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私が好きなのは・・・ 前編

619 :名無しさん:2007/06/16(土) 19:57:01

 6月初旬、秀規は毎日孤独感を感じながらも仕事をこなしていた。体調は崩し気味、精神的にも疲れを感じていた。
今日もライブの前に緊張の吐き気をもよおした。
そしてライブ後も体がだるく、気分が優れない。
なんとか最寄の駅まで到着した秀規は、頭がくらくらしていた。
ベンチに座り込み、そのまま動けなくなってしまった。
うつむいたままでいると、吐き気を催してきた。
ガマンできずその場に吐いてしまった秀規は、途方にくれていた。
すると誰かが声をかけてきた。
「菊地さんじゃないの?」
顔を上げると○○の母だった。
秀規の隣に座り、背中をさすってくれた。
「すみません。
 もう、大丈夫ですから。」
秀規が立ち上がろうとするが、すぐによろけてしまった。
「大丈夫じゃないじゃない。
 まだ気分悪い?まあ、熱がものすごくあるじゃない。」
○○の母が秀規のおでこを触った。
「タクシー乗れるかしら?
 ガマンできる?
 家にいらっしゃい。」
「でも、ご迷惑じゃ。○○さんが嫌がられるでしょう。」
「○○ならいませんから。
 もうあの子とは暮らしてないから。
 あの子の部屋空いてるから、そこで休んだらいいから。」
秀規はもうふらふらで考える気力がうせていたので○○の母の
言うとおりにした。


620 :名無しさん:2007/06/16(土) 20:02:19

 タクシーで5分で○○の家に到着する。
かかえられるようにして部屋に通された秀規は、○○が使っていたベッドに横にならせてもらった。
部屋を見回すと、ほとんどの家具が持ち出されていて、このベッドと机しか置かれたなかった。
秀規は○○の父の寝巻きを借りて、寝かされていた。
まさかこの家にまた来ることになろうとは・・・。
意識がもうろうとする秀規は疲れもあって眠りについた。


621 :名無しさん:2007/06/16(土) 20:07:04

 夕食を食べていた私の所に電話があった。
「もしもしお母さんだけど。」
「ああ、久しぶり何?」
「実は今菊地さんが来てるのよ。」
「えっ?なんで?」
私は母から菊さまとのいきさつを聞いた。
「あなたのベッドに寝かせてるけどいいわよね?」
「別にいいよ。菊さまの具合よくなりそうなの?」
「分からない。もしまだひどいようだったら病院に運んだ方が
 いいかどうしようか迷ってるのよ。
 ねえ、どうしたらいいかね?」
「そんなお母さん自分で助けたんでしょう?」
「そうなんだけどね。だってほって置けなくて。」
「分かった、じゃあ今から私そっちに行くよ。」
「そう、じゃあ待ってるから。」


622 :名無しさん:2007/06/16(土) 20:14:52

 私は数十分後実家に到着した。
部屋に入ると菊さまが静かに寝ておられた。
菊さまがだいぶやつれたように見えた。
私は菊さまにそっと近づき、おでこに乗せてあるタオルを変えた。少年のように眠るその寝顔。
ああ、かつて菊さまと付き合ってた頃・・・。
菊さまはよく具合を悪くされそのたびに私が看病してたっけ。
私も具合悪くした時、菊さまがお見舞いをくれたことがあったな。それがとても嬉しくて菊さまのこともっと好きになったんだった。
でもそれも昔の話。
もうあれからいろいろありすぎて・・・。
私は菊さまが哀れに見えてきた。
あんな酷いことを菊さまに言ってしまったけど、菊さま無理して
仕事に出られたんだろう。
仕事休むわけにはいかないものね。
「菊さま、ごめんね。本当ごめん・・・。」
私は菊さまの左手をそっと握り締めた。
早く良くなってほしい。
私は心からそう思った。


624 :名無しさん:2007/06/16(土) 21:48:16

秀規はかすかに「菊さま」と聞こえたような気がして目を覚ました。「あっ!○○・・・。」
「菊さま、お目覚めですか。お久しぶりです。」
まさか、○○がいるとは思わなかったので驚く。
「なんでいるの?」
「菊さまの具合が悪いって聞いて心配になって・・・。」
「俺のために来てくれたのか?」
「はい、そうです。」
「そうか、ありがとう。」
「菊さま、ずっと前私酷いこと言ってしまって。 あれからずっと気になってたけど、素直になれなくて・・・。」
「いいよ、本当のことだもの。」
「いいえ、私菊さまのこと侮辱してしまいました。 本当ごめんなさい。 菊さまいつも体調悪くても休まず頑張ってるのに。
 菊さまのこと私分かってるつもりでいて何も分かってなかった。」
「もういいよ。本当、こうしてお前がそばにいてくれるなんて
 夢のようだよ。ああ、夢なのかなあ。」
「いいえ、私はここに居ますよ。夢じゃないですよ。」
「○○、ありがとう。 お前のお母さんにもものすごく世話になったよ。やっぱりこの家、いいなあ。おれ実家が恋しくなったよ。」
「菊さま、今具合悪いから弱気になられてるんですよ。
 菊さまはこれからも東京で立派に生活される人なんですから。
 実家には時々帰ればいいじゃないですか。」
「そうだな。 なあ、お前の顔もっと近くで見たい。」
「どうぞ。」
秀規は○○の頬に優しく触れた。
ずっと触れたかったその頬。
懐かしいその頬に触れることができて涙が溢れてくる。
俺はずっとこいつのことが好きだったんだ。
初めて会った時からこいつが俺の心に住み着いてた。
「○○愛してるよ。お前のこと、今でも好きだよ。」
「き、菊さま・・・。ありがとう。 なのに私ったら・・・。いっぱい傷つけてしまったね。 あなたがこんなに愛してくれてたのに。」
○○の目から大粒の涙が零れ落ちる。


625 :名無しさん:2007/06/16(土) 22:04:29

○○は秀規の胸に突っ伏して、泣きじゃくった。
秀規は優しく彼女を抱きしめてなだめた。
「菊さま、私を許してくれるの?」
「ああ、もちろん。
 お前は俺の可愛い妹みたいなものだから。」
「ありがとう菊さま。
 さあ、菊さま何か食べますか?おなか空いてない?」
「あまり食べたくない。」
「じゃあ、ポカリスエットもってきますね。」
秀規にジュースを飲ませ、下着やパジャマも着替えさせた。
秀規はまた眠気が襲ってきたので目を瞑った。
「菊さまおやすみなさい。
 また明日も看病しに来ますから。」
「ああ、ありがとう。おやすみ。愛してるよ。」

こうして秀規はスヤスヤと子供のように眠るのだった。


626 :名無しさん:2007/06/16(土) 22:10:24

 次の日の夜にはすっかり元気になっていた菊さまは、私の家を
後にした。私は仕事帰りに駆けつけて菊さまを家まで送った。
「菊さま、じゃあまたお仕事頑張ってね。」
「ああお前もな。」
二人は笑顔で別れた。
私はそれから菊さまのことが気になりだし、菊さまのスケジュールを調べた。菊さまはこの週末仙台に行かれることになっていた。
「大丈夫かしら?体調崩しやすい人だから。
 よし、思い切って私も仙台にライブ見に言ってみようかしら。」
私は週末仙台へ乗り込むことに決めた


627 :名無しさん:2007/06/17(日) 19:55:13

 日曜日、東北新幹線に乗りこんだ私は車窓から景色を眺めながら、これからのことを考えていた。
「アキラさんの1周忌もまだなのに他の男の人のことを考えるの
 はいけないことなのかしら・・・。」
私は菊さまのことを考えていた。
菊さまは私のことをずっと好きでいてくれたのがわかった。
私は菊さまの愛情にとても救われたような気がした。
私は旦那が亡くなって気が張っていたのもあり、もう1人で生きていかねばならないと思い込んでいた。
しかし、もし菊さまがまだ私を思ってくれているのなら・・・。
菊さまさえよければ、私、菊さまに頼ってみようかしら。
でも彼女とはどうなったんだろう?
それを聞いて確かめなければならない。

 

628 :名無しさん:2007/06/17(日) 21:30:06

 ホールに着いた私は菊さまの美しいお姿が写されたポスターを
確認し、当日券を買い求めた。
2階席の後ろの方だったが、オペラグラスを持ってきたので
なんとか見ることはできるだろう。
しばらくすると開演した。
いつここの出番はいつだろうか?
なんだかドキドキする。
私は数年ぶりに見る菊さまのライブに緊張していた。
数組の芸人の出番が終わり、暗い照明の舞台からカノンが流れてきた。
私はとてもその曲が懐かしく思えた。
そしていつここの登場。
菊さまはスケッチブックを持っておられた。
客席から盛大な拍手が鳴り響き、悲しいときが始まった。
私は菊さまに焦点をあわせ、菊さまを見つめ続けた。
菊さまの一言一句をもらさず聞いた。
あの滑舌の悪い菊さまとは思えないほどはっきりとネタを言えていた。
そりゃそうだよね。何十回、何百回ってやってるんだから。
菊さまはきっちり仕事をされていた。
菊さまの甲高いはっきりした声を聞けて私は嬉しくなった。
その後フリートーク、体操、かわいいね、どけどけをやって
菊さまは静かに舞台の袖へ引かれた。


629 :名無しさん:2007/06/17(日) 21:41:20

 数十分後、ライブは終わった。
私はロビーに出て、菊さまにメールした。
「菊さまへ
 ライブお疲れ様です。
 実は今さっきの午後の部拝見しました。
 元気そうな声で安心しました。
 菊さま、これからも仕事頑張ってね。
 じゃあ、さようなら。       
          ○○より   」
送信。
私は仙台駅に向かって歩き始めた。
杜の都仙台の町並みを眺めながら、菊さまに想いをはせて歩いた。
しばらく歩いていると携帯が鳴った。
菊さまからだった。
「もしもし。」
「もしもし、俺だけど。お前今どこだ!」
「今仙台駅に向かって歩いているところです。」
「もう帰るのか?」
「はい、日帰りの予定でもう帰ります。」
「頼む!ちょっと待ってくれないか?」
「はい。」
「俺今から仙台駅に向かうから。そこで会おう。
 また電話するから。」
菊さまは電話を切られた。


630 :名無しさん:2007/06/17(日) 21:55:16

 先に到着した私は駅の前で菊さまを待った。
だがどこから現れるか分からないので、同じ場所に立つことにした。しばらくすると菊さまから電話がきた。
「もしもし。」
「もしもし、今着いた。どこにいるんだ!」
「菊さまこそどこですか?」
「俺今タクシー降りたところ。」
「じゃあ、私がそっちに行きます。」
私はタクシー乗り場に向かった。すると菊さまらしき細くて白い人をすぐ見つけることができた。
「菊さま!」
「○○〜!」
菊さまが走って駆け寄ってくる。
「良かった。お前、なんで今日来るって事前に言ってくれなかったの?」
「すみません。行くって決めたのおとといだから。」
「すぐ行ってくれればいいのに。」
「今度からそうしますね。」
「さっそくだけど、俺にお前の時間をくれないか?」
「どういうことですか?」
「今から岩手に行かないか?」
「えっ!い、岩手?」
「もちろん今から行ったらもう東京には今日中に戻れないから、
 一泊することになる。だから月曜日仕事休めないか?」
「まあ、有給あるから休めないことも無いですが・・・。」
「俺の実家で泊まればいいから。」
「え?菊さまの実家へ行くの?」
「親に紹介したいんだ。なあ、いいだろう?駄目か?」
「私なんか紹介していいんですか? 第一リカコさんはどうなったの?」
「ああ、もうとっくに別れたよ。」
「そうだったんですか・・・。 ・・・。菊さまがそうおっしゃるんなら・・・。 私、行きます。」
「やったー!じゃあ、今すぐ切符買うから。」
菊さまは急いで二人分の切符を買われた。私たちは新幹線に飛び乗り、岩手へと向かった。菊さまは私を先に座らせ、自分は携帯をかけに行かれた。


631 :名無しさん:2007/06/17(日) 22:02:25

「もしもし秀規だけど。」
「もしもし、秀規かい。どうしたの?」
「母さん、今からそっち行くから。
 多分19時ごろ着くと思うから。」
「ああ、帰ってくるのかい。」
「うん、それと俺一人じゃなくて、紹介したい人連れてくるから、その人も泊まるから宜しく。」
「え?友達が来るの?」
「ああ、女の子だから。」
「まあ、そうなの。分かった待ってるから。」
秀規は携帯を切った。
いよいよ両親に○○を紹介することができる。
秀規は嬉しくてたまらなかった。
絶対○○を二度と手放したくない。
その強い想いを胸に秀規は○○の待つ席へ戻るのだった。


641 :名無しさん:2007/06/22(金) 21:51:23

 新幹線の車内は少し冷房がきつかった。
私は疲れと、今から菊さまの実家へいくという緊張感から、
頭が痛くなっていた。
頭を抑える私を見て菊さまが心配した。
「大丈夫か?ちょっと寒いもんな。」
「ええ。」
「もうちょっとで着くから。」
「はい、着いたら薬局に寄らせてください。」
「分かった。」
菊さまは私に自分のスーツの上着をかけてくれた。
菊さまのぬくもりを感じながら私は目を瞑って岩手へ到着するの
を待った。

Last modified:2007/09/30 09:03:37
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