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君は何も悪くない

602 :名無しさん:2007/06/10(日) 21:47:10

 秀規は暫く○○から言われたことを引きずっていた。
笑顔がうまく出せなくなっていた。
営業でも引きつった不自然な笑顔しか出せない。
マネージャーに指摘されたが、どうすることもできなかった。
秀規はビリビリに破った○○のスケッチを結局捨てることが
できないでいた。
途中までセロテープで張り合わせて未完成のまま机の上に置き
っぱなしにしてあった。
久しぶりにリカコが訪ねてきた。


603 :名無しさん:2007/06/10(日) 21:54:13

リカコは海外ロケから帰ってきたばかりだった。
お土産を持って菊地邸を訪れたリカコは、対応した秀規の表情に
元気がないのを心配した。
「ねえ、病気でもしたの?」
「べつに、いつもと変わらないけど。」
久しぶりにきた菊地邸は少しちらかっていた。
さっそくシーツなどを洗濯したり、料理の支度、掃除をせっせと
リカコはやることにした。
その間秀規はリビングでボーっとテレビを見ていた。
リカコが秀規の机の上を拭こうとしたとき、スケッチブックが
目に留まる。
「あ!これって前押入れにあったスケッチ。」
リカコはこっそりそれを開いた。
そこにはビリビリしわくちゃになった絵がセロテープで修復され
て居る状態だ。
なぜこんなことになってるんだろうか?
暫く会っていない間に秀規にどんな心境の変化があったのか?
リカコは気になってしょうがなくなった。


604 :名無しさん:2007/06/10(日) 21:58:21

「ねえ、これどうしたの?」
「な、何?」
「このスケッチブックごみ?捨てるんだったら明日ごみの日だか
 ら捨てておこうか?」
「それは捨てないで!置いといてくれよ。」
「ねえ、なんで破いた跡があるの?」
「べつに、なんかの拍子にやぶれてしまったんだよ。」
「あなたが資料を粗末に扱うなんて珍しいわね。
 何かあったんじゃないの?」
「何もないよ。お前にはそのスケッチブック関係ないだろう。
 しまっといてくれよ。」
二人の間にしばらく沈黙が流れる。
リカコは意を決して質問することにした。


605 :名無しさん:2007/06/10(日) 22:03:06

秀規は黙っていた。
「ねえ、前から聞きたかったんだけど、これって前の彼女じゃ
 ないの?ねえ、別に責めないから答えてよ。」
「別に、ただの資料だよ。」
「タダの資料って感じがしないのよね。
 愛してる人の表情とか、可愛らしさを描いて残してる、
 なんか他人には分からない思い出の品に見えるよ。」
「別にいいじゃん。だったら何だって言うんだよ!」
「怒らなくてもいいじゃない。ただ、あなた元気がなさそうだから、何かあったのかと思ったのよ。」
「もう、いいだろう。ほっといてくれ。」
そういうと、秀規はスケッチブックを持って自分の寝室に
閉じこもってしまった。


606 :名無しさん:2007/06/14(木) 19:57:45

「ねえ、どうしてしまったのよ!出てきてよ!」
リカコが呼びかけるが秀規は部屋に閉じこもってしまったきり、
しばらく出てこなかった。
「もう、せっかく久しぶりのお泊りなのに・・・。」
リカコはがっかりしながら、夕飯を作った。

さすがに腹が減ったのか?夕飯の匂いにつられて秀規は部屋から
出てきた。
「さあ、食べましょう。」
「ああ、さっきはごめん。」
「いいよ。久しぶりにあなたと食事できてうれしいよ。」
リカコは笑顔で秀規に夕食を出した。


607 :名無しさん:2007/06/14(木) 20:07:18

しばらく黙って食べていた秀規だったが、口を開いた。
「実はさっきお前が見たスケッチブック。
 あれ、前の彼女をスケッチしたものなんだ。」
「そうなの。じゃあ、あなたの大切なものなのね。
 男の人って別れても思い出の品はとっておくものなんでしょ?
 でもなんでやぶったりしたの?」
「・・・。
 先日彼女に会ったんだ。」
「なんで?」
「その彼女、結婚してたんだけど最近旦那さん亡くしてすごく
 落ち込んでたんだ。
 俺達別れた後も時々メールしてたんだ。
 もちろん、友達としてだけどね。」
「ああ、そうなの。
 気の毒な方ね。」
「こないだ仏壇に供えてもらおうと思って饅頭持ってったんだ。
 そこで話してたら、ケンカになってしまって・・・。」


608 :名無しさん:2007/06/14(木) 20:16:00

「俺そのときものすごく仕事のことや性格のことけなされて。
 まさか彼女からそんなこと言われるとはおもってなかった
 から。もう頭の中真っ白になったんだ。
 家に帰って気づいたらスケッチブック破ってた。
 なあ、俺ってそんなに駄目な男なのかなあ?
 そんなに芸人って駄目な仕事に見えるのかなあ?」
秀規の悲しそうな表情を見てリカコは彼が哀れでしょうがなく
見えた。
「そんなことないよ。
 あなたは一生懸命やってるじゃない。
 今まで仕事を続けてこられたのは運だけじゃない。
 努力もしてるからでしょ。
 それにあなたは駄目なんかじゃない。
 もっと自信持ってよ。」
「ありがとう。
 でも俺、この仕事選んだの間違えだったんじゃないかって
 思い始めてるんだ。」
「そんな悲しいこと言わないでよ。
 自分で選んだ道じゃない。
 人に言われたからって迷ってるようじゃだめよ。
 あなたの信じたとおりの道を進めばいいじゃない。」
リカコは励まし続けた。
 


609 :名無しさん:2007/06/14(木) 20:24:12

 時は流れて2009年5月。
秀規は33歳になっていた。
相変わらずの生活を送っていたが、秀規は○○から言われた
言葉を今だ引きずっていた。
リカコは励まし続けてくれたが、彼女は今では売れっ子モデル
になっていた。
CMやドラマの脇役、新しい雑誌の創刊で引っ張りだこだった。
秀規はリカコの仕事の様子を知るたびに軽い嫉妬を覚えていた。
確実に自分より忙しく、収入だって上がっているはず。
前は少ない給料で生活してるから可哀想に思って何でもおごって
やっていたが、それもばかばかしくなっていた。
リカコの事を嫌いになったわけではないが、なにか違和感を感じている
秀規だった。


611 :名無しさん:2007/06/14(木) 21:41:32

 秀規の誕生日から数日、リカコが忙しい合間を縫って、
菊地邸を訪ねてきた。
秀規にプレゼントを渡しに来た。
「はい、これ誕生日プレゼント。」
「ありがとう。早速あけるね。」
小さな包み。
開けてみると、高そうな時計だった。
「わー、こんなのもらっていいの?」
「あなたに似合うと思ったの。」
秀規は正直嬉しさより、彼女が高級時計を惜しげもなく買える
身分になっていることに嫉妬を覚えていた。
なんだか自分が惨めに思えてくる。
だって秀規が去年リカコにプレゼントしたのはスカーフ1枚。
リカコはとても喜んでくれたが、その値段と比べると・・・。
秀規はリカコとの間にじわじわと距離ができていることを感じて
いた。
リカコは言った。
「ねえ、私今度化粧品のCMとれたの。
 それと映画にも出れることになったの。」
自慢してるつもりは毛頭ないんだろうが、今の秀規にはあまり
聞きたくない話だった。
自分には今だ映画出演の話はない。
昔から出てみたいと思っている映画の仕事。
しかし、秀規に仕事の依頼はなかった。


612 :名無しさん:2007/06/14(木) 21:51:46

 夕食を済ませた後、リカコは秀規に甘えてきた。
「ねえ、今夜は久しぶりに会えたんだから・・・。」
リカコは秀規の腕に絡み付いてくる。
秀規はとりあえずリカコを抱いた。
リカコは仕事のストレスを発散するかのように、秀規を激しく
求めてきた。
彼女の体は魅力的で美しかった。
だけど、秀規は自分が彼女のストレスのはけ口にされている
ような気がしてならなかった。
情事の最中何度も秀規の名前を呼ぶリカコ。
「あぁん・・・、ひでのりさん、ひでのりぃ・・・。」
秀規は彼女を一通り満足させて、自分も彼女の中で果てた。
だが、前のように彼女をあまり愛しく思わなくなっている。


613 :名無しさん:2007/06/14(木) 21:56:11

 翌朝リカコは帰っていった。
仕事が詰まっているらしい。
その日も休日だった秀規はリカコとの情事で少ししみのついた
シーツを洗うことにした。
以前なら彼女がやってくれていたのに。
秀規はこのままだといつかリカコの紐になってしまうのでは?
と不安を募らせていた。
そんな惨めな思いはしたくない。
そうまでしてリカコと付き合わなければならないのだろうか?
もうリカコは一人でも立派にやっていける。
いや、彼女は元々強い女。
秀規はリカコとの別れを決意し始めていた。


614 :名無しさん:2007/06/15(金) 21:58:53

 その頃私は実家を出て、他所の町で一人暮らしを始めていた。
自分の給料と亡き夫のわずかな遺族年金で自活することに決めた。
事故の保険金や生命保険も入っていたが、これは彼の法要や、彼の実家へ出向く時の費用にしたかったので、手をつけたくなかった。ただ、アパートを借りる費用として数十万ほどそこから捻出することにした。
私はなるべく古くて安いアパートを探した。
引越しシーズンを過ぎていることも有り、最初の値段より家賃を値引きしてもらえた。
これでなんとか毎月ぎりぎりだが生活できるだろう。


615 :名無しさん:2007/06/15(金) 22:05:31

 菊さまを侮辱して以来、両親と私はぎくしゃくしていた。
特に父と喋りづらくなっていた。
私はもう両親に頼る年でもないし、菊さまのことで謝る気も
無かったので、親元から離れることにしたのだった。
両親は最初驚いていたが、すんなりと一人暮らしを認めてくれた。
私は結婚生活をしていたこともあるんだから一人暮らしなんて
平気だと思っていた。
だが、実際1日目からなんとなく不安で、家に電話したくなった。
そこをじっと我慢し、何とか眠りにつくことができたが、翌朝自分で全部支度して仕事に出かけることが結構大変だということを
改めて思い知らされていた。
実家に戻ってからの私は母に頼りっきりだったので、ついそのくせがついていたのだ。
とりあえず私は1日1日を精一杯生きていくだけだった。


616 :名無しさん:2007/06/16(土) 19:24:54

 ある日秀規はリカコに電話した。
「もしもし俺だけど、今いい?」
「いいよ、何?」
「・・・。話があるから今から会えないか?」
「話なら電話でいいじゃん。」
「ちゃんと向き合って直接話したいんだ。」
「分かった。じゃあどこで会う?」
「君の家行っていいかな?」
「分かった。待ってる。」
数十分後、秀規がリカコの家に到着する。
「いらっしゃい。話って何?まあ、とりあえずお茶どうぞ。」
秀規はお茶を出されたが、口をつけようとしない。


617 :名無しさん:2007/06/16(土) 19:38:55

「さっそくだけど・・・。
 俺達別れないか?」
「・・・。えっ?何?」
「もう俺は君とは会わない方がいいと思うんだ。」
「何?何でなの?理由は?」
「君はこれからもどんどんテレビに露出すると思う。
 そしたら俺なんかと一緒にいたら駄目だと思う。」
「何で?そんなことない。 私はあなたが愛してくれてるから毎日生きる張り合いが あるのに。 ずっと今まで通りつきあいたいよ。」
「いいや、俺はもうそのつもりないから。」
リカコの目がどんどん潤んでくる。
「嫌よ。私はあなたの事が好き。 本当に大切よ。とても愛してる。 あなたも愛してくれてたんじゃないの?」
「俺達もうバランス悪くなってると思わないか?
 正直言うよ。俺君より仕事少ないし、収入だって・・・。
 そういうの男として耐えれないんだよね。」
「そんなあ。今ちょっと私が売れ出しただけじゃない。 ずっと順調かどうか分からないわ。 そんな、収入だって不安定なんだし。 そんなこと気にしなくていいのに。」
「気にするなっていっても気になるの! そういうところ全然君、分かってないよね。」
秀規はわざと冷たく言い放った。
もうリカコとの仲を完全に終わらせたかった。
「ねえ、他に誰か好きな人できたの?」
「そんなのいないよ。」
「じゃあ、私と一緒にいてよ。」
「それはできないって言ってるだろ! 何度言えば分かるんだ。
 まあ、そういうことだから。」
秀規は立ち上がり帰ろうとした。
リカコが追いかけて秀規に抱きつく。
「いやよ!待って。」
「離してくれ!もう会わないから。 電話もしないでくれ。じゃあ。」
秀規はリカコを強引に突き放した。
リカコはその場に泣き崩れた。
彼女のすすり泣く声が聞こえたが、秀規はもう振り返らなかった。

 

618 :名無しさん:2007/06/16(土) 19:46:15

 リカコと強引に別れた秀規。
かつて自分も○○に強引に別れを切り出された。
結局自分も同じ事をしたわけか・・・。
自分がされてすごく傷ついたことをリカコにしてしまった。
自己嫌悪に陥った秀規は、もう二度と恋などしないと思った。
一人で生きていこう。
自分と感性の合う人と結婚する。
そんな甘いこと考えてたのがバカみたいだ。
そんな人いやしない。
秀規は自宅に到着すると机に座った。
例のスケッチブックを開く。
今でも愛しい○○。
でも彼女とももう二度と会うこともあるまい。
秀規は自然と涙が出てきた。
もう誰も愛してくれる人はいない。
そしてもう誰のことも愛さないのだろうと思うと、
自分は一体どんな最期を遂げるのか恐ろしくなってきた。
寂しい老後を送るのだろうか?
でもしょうがない。
自分で選んだ道。
すべては芸人という道を選んだことから始まったのだろうか?
一晩中泣き明かす秀規だった。

Last modified:2007/09/30 08:21:18
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