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そして桜の花びらが舞い散って・・・ 前編

390 :名無しさん:2007/04/28(土) 20:08:34

 Aと会って数日経ったある日、彼から電話があった。
「今度飲み会があるんだけど、もちろん行くだろう?」
秀規は断る理由などなかったのでもちろんOKした。
週末の夜、居酒屋で集合することになった。
秀規はこの集まりがきっかけで○○のことを吹っ切れたらどんなに楽だろうか
と考えていた。
でもそううまくはいかないだろうな。そんなに甘くないだろうと分かっていた。
だけど、敢えて、自分のこの悪い運の流れを変えたい気持ちが強くあった。


391 :名無しさん:2007/04/28(土) 20:18:15

 飲み会当日、Aに言われた場所へ着いた。
そこには総勢10名ほどおり、内、女の子は5人いた。
皆それなりのお洒落な格好で来ていた。
秀規より若そうな子ばかりなような気がした。
Aに促され、皆店に入った。
掘りごたつ式なので靴を脱がなければならなかった。
皆適当に脱いで上がった。
すると、1人髪の長い女の子が皆の靴を揃えていた。
秀規はそれを見て、
「ああやって点数稼ごうとしてるんだろうなぁ・・・。」
と、心の中で思った。
その女の顔を一目見てやろうと思い、彼女が顔をあげるのを待った。
彼女の顔を見て秀規はハッとした。
なんか1週間ほど前に見たことがあるような・・・。
そうだ!あのレストランに居たモデルみたいな女。
秀規が大嫌いなタイプのあの女だった。
彼女と目が思いっきり合った秀規はすぐにその視線をそらし、そそくさと席に
ついた。
こんな偶然ってあるんだろうか。秀規はAの方を見た。
Aは気づいてないんだろうか?


392 :名無しさん:2007/04/28(土) 20:26:50

 とりあえず適当に座ったが、Aが一応幹事なので席をくじ引きで決めようと
言い出した。
割り箸で作ったくじを皆が引いた。
秀規はどうぞあの女とは近くになりませんように!と心の中で念じた。
しかし、結果は秀規の願いとは裏腹になった。
彼女と隣どうしになってしまった。
秀規は彼女にどう接したらいいのか分からなくなってしまった。
無視するのは失礼だ。だけどとても仲良くなれそうにはない気がした。
Aに助けを求めたい気分だったが、Aは気づいてくれそうにも無いし皆をまとめるのに
必死だ。
秀規は心臓がドキドキしているのが自分でも分かった。
彼女が秀規の隣に座ってきた。
彼女はにこやかな表情で秀規の方に顔を向けている。
目を合わせるべきか、どうしよう、秀規は幹事であるAの方ばかり向いていた。
「それじゃあ、とりあえず自己紹介しましょうか、じゃああなたから。」
時計周りに1人ずつ自己紹介することになった。


393 :名無しさん:2007/04/28(土) 20:33:37

 秀規の番が来た。
「菊地秀規、30歳、職業芸人です。宜しくお願いします。」
パチパチパチパチ・・・。
次は例の彼女の番。
「山本リカコ、25歳、職業モデルです。宜しくお願いします。」
パチパチパチ・・・。
やっぱりモデルか!秀規の予想は当たっていた。
その後も自己紹介が続いたが、隣の彼女が気になって人の名前が耳に入らない。
秀規は冷や汗が出ていることに気づき、ハンカチを取り出して汗を拭った。
「暑いですか?」
彼女が話しかけてきた。
「え、ええ、まあ。」
動揺している秀規はなんと答えていいか分からなかった。
彼女は皆の自己紹介を聞きつつも、常に秀規のことを気にしているようだった。
これはもう話をしないわけにはいかないだろう。
秀規は最低限のことだけ話して次の席替えまでの辛抱だと思うことにした。


394 :名無しさん:2007/04/28(土) 20:36:54

 とりあえず生ビールが運ばれてきた。
「それでは乾杯!」
「乾杯!」
秀規は周りの人とグラスを合わせ、最後に隣の彼女とグラスを合わせた。
彼女はとてもいい笑顔で秀規を見つめていた。
秀規は照れを隠すかのようにビールを一揆に飲んだ。


395 :名無しさん:2007/04/28(土) 20:56:12

「お酒強いんですか?」
「いいえ、そうでもないんだけど・・・。」
秀規は適当に答えた。
「芸人さんですよね?教育テレビに出てらっしゃいますよね。」
「ええ、ほんの数分ですけど。」
「でも毎日だからすごいですよね。私あの体操とても好きですよ。」
「ああ、そうですか。ありがとう。」
彼女に褒められて悪い気はしなかった。
ここで秀規は彼女の顔をまともに見てみた。
とても目鼻立ちの整ったなかなかの美人だ。
まつげがとても長かった。
さすがモデルだけある。
黒いストレートヘアー。とても艶のある髪の毛。
指先は綺麗にピンク色のマニキュアが塗ってある。
胸も女らしく、それなりの膨らみがあった。
外見は申し分ない。
ただ中身がどうなのかが分からない。
秀規は自分の中にあるモデルへの偏見が頭をもたげていて、どうしても素直に
彼女をいい人だと思うことはできなかった。


396 :名無しさん:2007/04/28(土) 21:09:46

「菊地さん、ご趣味はなんですか?」
「えっと、プラモデル集めたり、古いメダル集めたりしてます。
 あと、音楽や絵です。」
「そういえば、絵がものすごく上手ですよね。悲しい時〜っていうやつ、
 私、絵が上手な人とても尊敬しちゃいます。」
「ははは・・・。それぐらいしかとりえないから。」
「絵がうまいのって努力だけじゃどうにもならないじゃないですか。
 生まれ持ってそういう才能があるのってとてもうらやましいです。」
「ありがとう。君はどんな趣味もってんの?」
「私はピアノかな。っていっても家狭いから置けなくて、実家にはあるんですけどね。」
「ああ、一人暮らしなんだ。」
「ワンルームで狭いから持ってこれなくて、でも時々どうしてもひきたくなるから、
 知ってますかね?ハンドロールピアノっていうの、あれ使ってるんです。」
「ああ、折りたためる奴ね。あるよね。へえー。」
「菊地さん一人暮らし?」
「うん、そうだよ。」
「プラモデルとか置いたら場所とりませんか?」
「ああ、そうだね。家物だらけだよ。2LDKあるけど、そんなに広くは感じないな。」
「えっ?2LDK?そんな広い所に住んでるんですか?
 いいなあ。家賃高くないですか?」
「賃貸じゃなくて、買ってるんだ。」
「えっ!その若さでマンション持ってるんですか?」
「買ったといっても、親に買ってもらったの。」
「ああ、そうんなだ。お金もちなんですね。」
「そういうわけじゃないんだけど、俺長男じゃないしもう実家には戻らないから、
 財産分けって形で買ってもらったんだ。その代わり兄は実家を自動的にもらうことに
 なってるから。俺もう岩手に帰る場所ないんだよね。」
「ああ、そういう事情があるんだ。」


397 :名無しさん:2007/04/28(土) 21:58:23

 あれだけ警戒していたのになぜか秀規は彼女に対して饒舌になっていた。
「あ、お料理来た。菊地さんこれ取って上げますね。」
彼女が秀規の前に置かれた大皿の料理を取ってくれた。
取る時、彼女の身体が少し秀規に触れた。
彼女の髪の毛からふわっといい匂いがした。
秀規はドキドキ感が止まらなくなっていた。
なぜかもっと彼女と話してみたい。そう思った。
料理をつまみながら彼女に質問してみた。
「山本さんは、モデルさんらしいけど雑誌とか出てるの?」
「ええ、あまり大きな雑誌ではないんですけど。一応ファッション雑誌中心に。
 後は、通販のモデルとか、コマーシャルに少し出させてもらったりしてます。
 そんなに有名ではないので小さなお仕事が多いです。」
「へえ、そうなんだ。一人暮らしできるってことはそこそこの給料もらってるってことだから
 立派なものじゃない。」
「でも最初は本当給料少なくて。とても自立できないから他にアルバイトしてました。
 もちろん一人暮らしはできなくて、実家に住んでました。
 一人暮らしできるようになったのここ2年ぐらいですもん。」
「そうなんだ。結構苦労してるんだね。」


398 :名無しさん:2007/04/28(土) 22:07:20

「菊地さんは芸人になられてどれぐらいですか?」
「もう10年かな。」
「長いですね。」
「そうかなあ、地味に続けてます。」
「でもNHKに毎日出てるのって結構すごいと思いますよ。
 子供がいる人はたいがい知ってると思うし、そうじゃない人でもビデオ
 とって見る人もいるって聞いたことあるし。」
「だといいんだけどね。あれ以外テレビでないから時々知らないっていわれる
 ことあるんだよね。」
「ライブとかでてるんですよね?」
「うん、それが中心かな。あと週1ラジオ出てる。」
「えっ?ラジオ?いつですか?」
「水曜日。あっでもインターネットでしか聞けないから。」
「えー!ネットしてるのに知らなかった。
 なんていう番組?」
「芸能株式市場。」
「それで検索したら出るんですよね?じゃあ絶対聞いてみよう。
 ああ楽しみ。でも私知るの遅いですよね。どれぐらいされてるんですか?」
「今年で2年目。」
こうして彼女との会話は弾むのであった。


399 :名無しさん:2007/04/28(土) 22:14:00

 トイレへ行った秀規は用をたしていた。
隣にAが来る。
「おい、秀規、彼女と話弾んでたな。どう?口説けそう?」
「まだそんなに仲良くなってないから・・・。」
「なに躊躇してるんだよ。ガンガン攻めていけよ!」
「いや、向こうがどう思ってるか分からないし。」
「そんなの大丈夫だよ、俺が仲立ちするから。メール交換ぐらいは最低でも
 しろよ!」
「お前気がつかなかったか?」
「何が?」
「あの子こないだ俺らが行ったレストランにいたんだよね。」
「えっ?俺知らないよ。」
「ほら、俺がモデルは嫌いだって話したじゃん。」
「ああ、あの時の?えー俺顔覚えてないや。お前よく覚えてたなあ。
 それにしてもすごい偶然じゃん。なんか運命感じないか?」
「そうかな。俺、偏見持ってたの撤回するよ。そんなに悪い子じゃないみたいだし。」
「おお、そうかそうか。じゃあ気に入ったんなら試しにデートに誘ってみろよ。
 多分お前達の様子見てたら、大丈夫だと思うから。」
「うん、そうしてみようかな。」


400 :名無しさん:2007/04/28(土) 22:17:47

 何回か席替えをして、そのつど女の子と喋ったが、やはり山本リカコが一番
秀規の心の中に入ってきたと思った。
秀規は自分の勘を頼りに彼女にアタックしてみることにした。
帰り際、各々が自分の気に入った相手にメールや携帯番号を交換していた。
秀規は勇気を振り絞り、リカコへメール交換しないか聞いてみた。
「はい。いいですよ。」
彼女は快く応じてくれた。満面の笑みで。
秀規は皆と別れ家路に着いた。


401 :名無しさん:2007/04/28(土) 22:21:51

 家に帰ると早速リカコにメールした。
「リカコさんへ
 今日は楽しかったです。君ともっと話ししたいから、今度良かったら
 お食事しませんか?
                           秀規より」
送信・・・。

暫くすると彼女からメールが来た。
「菊地さんへ
 こんばんは。お食事いいですね。ぜひ行きましょう。
 いつにしましょうか?          
                       リカコより」
秀規は彼女とのデートの約束をとりつけることができた。
これで新しい恋に踏み込める。
秀規は自分の未来に一筋の光が射しているような気がした。


402 :名無しさん:2007/04/29(日) 17:31:28

今日はリカコとデートだった。
秀規達は3時ごろカフェで待ち合わせした。
甘いものが少し食べたくなったのでコーヒーとケーキを頼んだ。
「菊地さんから食事に誘ってくれるなんてとても嬉しいです。」
「俺こそ、リカコさんが来てくれて嬉しいよ。」
秀規は素直なリカコの性格が自分にもうつっているような気がした。
彼女といれば、素直な自分で居られる気がした。
「今日は写真持ってきました。」
リカコが差し出してくれた写真を見る。
モデルの仕事風景や、リカコがモデルとなっている雑誌の切り抜きがあった。
「へえ、すごいね。あれ?これは?」
「あっ、それは私がモデルを本格的にやる前のものです。」
「もしかして保育園?えっ!保母さんだったの?」
「はい、実はそうなんです。」
「へー、そうなんだ。保母もにあってるね。」
「そうですか?でも1年ぐらいしかやってないんですよね。
 私学生の時からモデルのバイトはやってたんです。
 でも、学校は保育士の資格取る所だったし、保母になる夢も捨て切れなくて。」
「なるほど。それで一応は資格取ったから就職したんだね。」
「欲張りなんですよね。一つ夢かなったら、次はモデルとして本格的に活動してみたいって
 思って。保母のままだったら安定したお給料もらえてたんだけど。夢追いかけるのも苦労
 しますよね。でも後悔してないですけどね!」
彼女の身の上話を聞き、秀規は思った。
とてもポジティブな性格、それに自分に対して厳しいが他人に対しては優しく接することができる
彼女。秀規は見習わなければならないと思った。


403 :名無しさん:2007/04/29(日) 17:38:48

自分はこれから先どうなるんだろうか?
秀規は特にここ最近このことについて考えていた。
○○に別れを切り出されたときにはっきり分かった。
やっぱりこの仕事だと普通の女性とは結婚は難しいのかもしれない。
同じ業界の子だと分かってもらえるのかもしれないが、それでも安定
しない身分。
結婚するとなると、それなりの覚悟もいる。女一人養えない状態で、
子供を育てていくのは厳しいものがある。
秀規は東京に出てきた時、自分は一生結婚しないかもしれないと漠然と思っていた。
世界でたった一人自分と同じ感性を持った人と結婚したい。
その願望はあるものの、そんな人に果たして巡り合えるか自信がなかった。


404 :名無しさん:2007/04/29(日) 17:43:26

でも、リカコと巡り合ってみてもっと自分は頑張らなければならないと思った。
まだ気が早いのかもしれないけれど彼女なら自分と一生を共にしてくれるかも
しれない。自信はまだないけど、そうなりたい。
秀規は彼女との時間を大切にしていこうと思った。
ゆっくりだけど、確実に、二人の仲を親密にさせたい。
そう願いながら、リカコとのデートを楽しんだ。


405 :名無しさん:2007/04/29(日) 17:51:59

 食事を済ませた二人は、夜の街を歩いていた。
まだずーっと一緒にいたい。
だけどいつまでも彼女を引き止めるわけにも行かない。
最寄の駅のホームに着いた。
「ねえ、菊地さんの誕生日私の家でお祝いしませんか?
 たいしたもてなしはできないけれど、お忙しいですか?」
「多分仕事が入ってたような気がする。芸人にとっては稼ぎ時だからね。
 でも夜には戻ってこれると思うんだけど。」
「じゃあ、夜私の家に来てくださいね。あっ、地図簡単に書いときますね。」
彼女は自分の手帳に地図を書き出した。
それを契って、秀規に渡す。
「分からなかったら電話してくれればいいですから。多分たどり着けると思います。」
「ありがとう。誕生日のお祝いなんて久しくやってもらってないからとても嬉しい。」
「じゃあ、頑張ってお料理作らなきゃ!楽しみ!」
そういうと、彼女は秀規のほっぺにキスしてきた。
突然のキスに驚く秀規だったが、満面の笑みがこぼれる。
なんて幸せなんだろう。
手を振って地下鉄に乗り込む彼女を見送りながら思った。
自分は確実に新しい道に進んでいる。
ああ、俺って幸せになれるんだろうか?
秀規は心地よい気持ちで家路についた。

Last modified:2007/09/28 11:05:38
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