Create  Edit  Diff  FrontPage  Index  Search  Changes  History  wikifarm  Login

03-726

冬。下校時刻を少し過ぎ、あたりはすでに真っ暗になっていた。
いまだぽつぽつと帰宅を急ぐ学生たちの影が見える。

「それじゃあ、命、私はこっちだから。」
赤い髪の少女は並んで歩いていた男子学生に手を振り別れを告げる。
「あ、はい。じゃあ、灯さん、また明日。」
少年は一礼して家路につく。

それを見送り、少年の姿が見えなくなると灯は手を下ろし、ため息をつく。
「はあ、、、灯『さん』か、、、」
あれから1ヶ月。

一緒に帰るくらい程度の仲にはなったものの、いまだ記憶は戻らない。
(戻らない、という表現が正しいのかはわからないが。)
「この、贅沢ものっ。」
灯は自分の頭をこつんとたたく。
「一緒にいられるだけで、、、十分幸せなのに、、、ね。」
再度ため息をつくと灯は自宅へと歩みを進めた。

「まだ記憶は戻らんか。、もどかしいものだな。」
誰もいない通学路。ふと声が聞こえる。
月明かりに照らされ、黒いマントをはためかせた男が、そばの電柱の上に立っていた。
「ドリィ〜ム。仕方があるまい。あまり使いたくはなかったが、、、」
しばし思案にふけるない黒マントの男。大きくうなずくと、ニタリ、と笑みを浮かべ闇夜に叫ぶ。
「ふははははっ!!待っていろ真行寺命!!わが悪夢、とくと見るがいい!!はっはっはっはっはっ!!!」

1週間後。
「、、、ここね。ナイトメアが指示した場所は。」
灯は学園内のある木の前にいた。懐かしい思い出がよみがえる。
命が始めてヒルコを呼び出したときの、あの伝説の木の前だ。
「よくきたな、灯。今日はお前にも悪夢を見せてやろう。」
どこからともなく聞こえてくるナイトメアの声に灯は辺りを見回す。
「ふふふ。さあ!私が作り出した迷宮で再度囚われの身となるがいい!!」
木の上からの声に顔をあげる灯。見ると捻じ曲がった空間が接近してくる。
「これは、、、月匣!、、、ナイトメア、なにをする気?」
冷静な中に少しだけあせりを含んだ声で問いながら、月匣に吸い込まれていく灯。
「なに。すぐにわかるさ。ドリィ〜ム。」
桜の木の下、闇にはニヤリと笑うナイトメアだけが残った。

「真行寺命だな。」
命は学校からの帰り、誰もいない道で呼び止められた。
え?と、きょろきょろ見回すも人影はない。
気のせいかと思い立ち去ろうとする。
「真行寺命だな。」
今度ははっきり聞こえた。上からだ。
見上げるとそこには月明かりをバックに電柱の上に男が立っていた。
「だ、だれ?」
「ふふふ。我が名はドリームマン。真行寺命よ、緋室灯は預かった。返して欲しくば伝説の木まで来い。」
「あ、灯さんを!?な、何者だ!何の目的で灯さんを!?」
驚きを隠せない命。
「ふふふ。くればわかる。お前がくれば、な。」
「な、何で僕が行かなくちゃ行けないんだ!」
「ん、、、む?、、、お前が来ないと話しが始まらんじゃないか。」
考え込み、思わずつぶやくナイトメア。よく考えたら確かに今の関係では引きが足りんかったのか?
が、気を取り直し答える。月明かりでよくは見えないかもしれないが、これ以上ないというくらいの悪党面を作り。
「もとい。お前が来なければ緋室灯はどうなるかわかっているんだろうなぁ?あんなことやこんなことまでしてしまうぞぉ?」
「な!?あんなことやこんなことだって!?ひ、卑怯者め!」
お。釣れた。よし、この路線でいけばいいのか。
「さらにはあんなことまでしてみようかなぁ、ん〜?」
命が下から睨んでいるのがわかる。よしよし。
「いいな、伝説の木だぞ。では、さらば!ドリィ〜ム。」
「伝説の、、、、って、学校の校舎裏のヤツだよな、、、」
ナイトメアが暗闇に消えると、命は駆け出していた。

「ここ、か。何だろう、、、ここで、、、何かあった気がする、、、」
命は戸惑っていた。校内にあるためもちろん見たことも近くにいたこともある。
だが、それ以外に何かここであった、そんな気がしてならない。
ふと、背後に人の気配を感じ、命は振り向いた。
「ド、ドリ、」
背後にはいつの間にかナイトメアが立っていた。
「俺のことはいいから、灯のことくらい思い出してやれ。」
そういうと命を突き飛ばす。
「え、うわっ、、、うわぁぁぁ〜」
突き飛ばされ、倒れこむ、、、はずが、どんどん落ちていく。暗闇の中、命はどこかへと落ちていった。
命ははっと目を覚ます。気を失っていたらしい。
顔をあげると灯が宙吊りに縛られていた。
「あ、灯さん!大丈夫!?」
思わず起き上がり駆け寄ろうとする命だったが、他に誰かいるのに気が付く。
「やっとお目覚めかね、命。」
灯のそばに立っていたそのめがねの男は表情をかえずに言った。
「え、、、だ、だれだ!?」
見知ったふうの台詞だったが命には記憶がない。
「ふむ。我が顔も見忘れたか。お前を生み出したこの私を。」
「え、、、あ、、、何だ?何か、、、忘れて、、、る?」
その台詞に命の中の何かが反応する。、、、したような気がした。
「ふん、まあいい。そこでおとなしくこの第7の巫女が我がヒルコによって貫かれるさまを見ていろ。」
持っている剣で吊り下げられた灯をつつく男。
「う、、、ん、、、」
気を失っていた灯が目を覚ましたようだが、まだ目の焦点が合っていない。
「ま、待て!何でそんなことを!」
止めようと近づこうとするが足が震えて動かない。
「ふん、世界を滅ぼし、われらの世界を作るためではないか。それすらも忘れているとはな。まあいい。貴様は用済みだ。」
、、、世界を滅ぼす?、、、巫女?、、、なんだ、、、
男が振り上げた剣を振り下ろし今まさに灯に切りつけんとした瞬間。
命の口が自分でも知らぬうちに言葉をつむぐ。
「待て!やめろ!目を覚ますんだ!あかりん!!」
灯はその台詞に意識を取り戻す。男と灯は驚いた表情で命を見つめる。
「え、、、?」
「ほう、、、思い出したのか?」
「み、、、命?思い出したの?」
期待に満ちた灯の表情。だが命は自分の台詞に驚いているだけだった。
「え?なにを?あれ?何で灯さんのことあかりんなんて、、、あれ?」
「ふん。驚かせおって。ならばまずは貴様から片付けてやる。このヒルコでな!」
男は気を取り直したふうで命へ迫る。そして今度は命へとその剣を振り上げる。
「命、、、命!!!」
命の記憶がフラッシュバックする。今まで生きてきた以外の、あるはずのない記憶が入ってくる。
「ヒル、、、コ?、、、あかりん、、、菊田、、、先輩?」
命はすべてを理解した。前世のこと、1ヶ月前までの戦い、ナイトメア、マユリ、望、、、ヒルコ、、、あかりん。
「!!!、、、ヒルコ!」
自らの手に力を注ぎ込み、命は己が分身である剣を生み出し、襲ってきた男を切りつける。
その男はまるで立体映像でも切り付けるかのようにゆがみ、消えた。
命は明かりのほうを向き、すまなそうな、はにかんだ笑みで言った。
「あかりん、、、ええと、、、ただいま、で、、、いいのかな?」
「みこ、、、と、、、ほんとに、、、思い出した、、、の?」
近づき、自分の戒めをヒルコにより解き放った命を見て、灯はは不安そうに尋ねる。
「ごめんね、今まで忘れてて、、、」
やさしい微笑。この1ヶ月のぎこちないものとは違う、最終決戦前後で見せた命の笑みだった。
「命!!命、命!」
目に涙を浮かべ、抱きつく灯。命はそれを優しく抱き返す。
「、、、ほんとに、、、命なんだよね!?」
えぐ、えぐ、と、泣き出しそうになるのをこらえ、灯は問う。
「大丈夫。全部、思い出したよ、、、あかりん、、、魔王のことも、ヒルコも、ナイトメアも、まゆりんも。」
命はもう一度、ぎゅっと灯を抱きしめた。
「やれやれ。やっと思い出した、か。」
暗闇から声が聞こえた。
「ん。ありがと、ドリームマン。」
命は振り向かず答える。記憶を取り戻した瞬間、これがすべてナイトメアが作り出した月匣のなかでの幻と理解したからだ。
「なに。少々もどかしくてな。勝手にやったことだ。気にすることはない。」
闇から姿を現したナイトメアは、これ異常ないというくらいに渋くつぶやいた。
静寂が流れた。灯の嗚咽だけが小さく響く。
不意にナイトメアが切り出す。
「そうそう、となりに休憩できる部屋を用意しておいた。二人でゆっくり語り合うがいい。この月匣、あと3時間くらいはこのままだからな。」
3時間?何でまた、、、と命が疑問に思い、口に出そうとするが、ナイトメアの言葉にさえぎられる。
「ま、ゆっくりしていけ。ゆっくり、な。ドリィ〜ム。」
ニヤリ、といたずらをしようとしている子供のような笑みを浮かべ、ナイトメアは闇に消えていった。
二人は壁に出現したドアに入っていった。

「で、、、なんじゃこりゃあ!!御休憩3時間ってか、おい!!」
「、、、ベッド、、、なんで?」
ドアをくぐるとそこには、、、大きなベッドがおいてあった。
命はナイトメアの笑みの理由を理解した。
灯にはそれが何のためのものかまでには考えが及んでいないようだったが。
「え、いや、その、、、なんだ。」
あせる命をよそに、灯は部屋を横切っていく。
「あ、冷蔵庫、、、何か飲む?」
ベッドの向こうにテーブルとソファがあり、そのとなりにあった冷蔵庫から、灯が飲み物を取り出している。
「ああ、そうだね、とりあえず座ってゆっくりしようか。ははは。」
「命、なんか変。、、、はい。」
かなりぎこちなく汗をかいている命をいぶかし見つつ、入っていた缶を渡す灯。
「あ、ありがと。」
栓をあけ、ごくごくとのみ一息つくと命は言った。
「ごめんな、あかりん。今まで忘れてて。」
灯も飲み物に口をつける。そして、少しうつむき、答える。
「ううん。命のせいじゃないよ。それに、、、帰って来てくれただけで、、、私は幸せ、、、」
最後に涙声が混じり始めたのを聞き、命はあせる。
「これからはずうっと一緒だからね。、、、あ、あかりん、、、」
優しくささやき、しばし沈黙、かなり緊張した面持ちで灯を呼ぶ。
「ん?」
灯は顔を上げ続きを待つ。
「えと、、、その、、、好きだ、よ。今まで何度もいいたくて言えなかった。でももういえる。好きだ、あかりん。」
目を泳がせ、意を決し、灯の目を見ながら命は告げる。
「あ、、、命、、、うれしい、、、私も、大好き。」
命の言葉に、目に浮かべた涙があふれ、こぼれる。その涙をぬぐおうともせず微笑み、灯も答えた。
しばらくの静寂が過ぎ、命は顔を赤くし照れ笑いを浮かべ頭をかく。
「あ、ははは、、、何か、、、てれるね、、、ははは」
その行動に、やはり顔を真っ赤にした灯もうなずきながら涙を拭く。
そして場を繕うように目の前にあったリモコンに手を伸ばす。
「えへへ、、、そうだね、、、あ、テレビあるんだ、、、ぽち。」
大きなブラウン管に、肌色のモザイクがうごめいていた。
一瞬の静寂の後、大音量でテレビの中の女性のあえぎ声が聞こえてきた。
「ん?、、、なにこれ、、、!!」
すぐには理解できなかった灯だったが、それが何かわかった瞬間、月衣の中からこれ以上ないという速度で己の箒を取り出し、その画面に撃ち放っていた。
何度も、何度も。
「うわっ、、、あかりん!いきなり撃つんじゃない!」
画面に釘付けになった命が次の瞬間に見たものは破壊されたテレビとそれでも撃つのをやめない灯だった。
灯を抑え攻撃をやめさせる命に、灯は非難の言葉を放つ。
「なに?命、、、、あれ、見たかったんだ?」
これ以上ないというくらいの冷たい声で言い放つ灯。
「いや、そうじゃなくて、いやちょっとは見たかったけど、、、じゃなくて!」
言い訳にしどろもどろになる命をジト目で睨みつつ、灯にはひとつの考えが浮かんだ。
「!!ここ、、、もしかして、、、そういうところ、、、なの?」
「あ〜、、、そう、、、だと思う、多分。」
灯の考えを肯定する命。灯の声はさらに低く、おどろおどろしくなる。
「なんで命が知ってるの?」
「え?や?なんで?いやその、、、一般常識として、だね。」
何で、って、、、ベッドがあって、あのナイトメアのニヤリ見たら普通気が付かんか?と思うも、声に出ない。
「はいったこと、、、あるんだ?」
灯の言葉に命は心臓が飛び出したかと思った。
「ない!断じてない!!初めて!!」
おいおい!そんな事思われてたんか!
「ホント、、、だよね?嘘ついたら、、、」
少し、ほんの少し声のトーンを戻し、灯が言う。
命は首をぶんぶん横に振って否定した。
「ない!ない!断じてない!誓って初めてだ!!」
灯はその言葉に納得したか、小さく、うん、とだけ答え、うつむいた。

Last modified:2012/03/31 11:20:36
Keyword(s):
References:[リスト/カテゴリ別/ナイトウィザード]